失敗しない新規就農への道|小田原編(1)

はじまり

半年前の話だ。

コロナが少し収まってきた頃合いを見計らって、私は久しぶりに東京に戻った。

せっかく帰るのだから、と、しばらく会っていなかった友人たちに声をかけ、食事の席を設けることにしたのだが、そのときに会った中学時代からの友人Kが、こんな相談を持ちかけてきたのが、今回の物語の始まりである。

「俺の会社の後輩で、農業を始めたいと言ってる奴がいるんだよ。今度、そいつの話を聞いてやってくんねぇかな」

Kとは地元・北海道の中学で知り合って以来、30年以上に渡って親交を続けている、私にとっては数少ない旧友の一人だ。時期は違うが、ともに郷里を後にし、就職のため上京。東京では1年に1度のサイクルでお互いの近況報告をするために、ジンギスカンを食べながら酒を酌み交わす、そんなちょうど良い距離感を保っている。

「俺は構わないよ。だけど、話を聞くなら小田原で、ってことになっちゃうけど、それは大丈夫なのかな」

「うん。それは言ってあるから大丈夫だよ」

聞けば、Kと後輩のT君は、彼らが勤めている会社の野球部で知り合い、働いている部署は違うものの、趣味の野球の話で意気投合。週末には部活動のほかに、アウトドア・キャンプに一緒に行くなど、とても仲の良い先輩・後輩関係を築いているとのことだった。T君の年齢は35歳。社会人としては最も脂ののった時期と言っても良い。

 

-35歳か。もし、自分がその頃に農業を始めていたら、今頃、どうなっていただろうか。

 

Kとの食事の帰り道、終電の窓から見える東京タワーを眺めながら、私は少し酔った頭でぼんやりとそんなことを考えていた。

(第2回へつづく)

著者プロフィール

細谷豊明(リブラ農園・代表)/1975年北海道生まれ。上京後、出版社・編集会社での勤務を経て、食品宅配事業のWebサイト、カタログ制作のチーフエディターに就任。2019年、44歳のときに小田原市に移住し、未経験ながらも農業の道へ。元エディターの経験を生かして、新規就農者の視点から農業の現実をブログにて発信中。小田原市・認定新規就農者。

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