失敗しない新規就農への道|小田原編(3)
■前回までのあらすじ
久しぶりに帰った東京で私は中学時代からの友人Kと再会した。Kは私に、自分の後輩であり、農業を始めたいと考えているT君の相談に乗ってもらいたいと言う。快諾した私の元に数日後、T君がやってきた。私のキウイ畑を興味津津に見学していたT君だったが、そんな彼から「これから農業を始めるなら野菜が良いか?果樹が良いか?」の究極の質問を投げかけられる。
野菜か、果樹か(2)
「その質問に答える前に、僕からもT君にひとつ質問してもいいかな?」
私はT君に農業への理解を深めてもらうために、始めにこんな質問をした。
「君の職業が学校の先生だったとするよ。ある日、知らない子供からこんな質問を受ける。
『将来、学校の先生になりたいのだけど、小学校の先生が良いですか?それとも、中学校の先生が良いですか?』と。
君なら、どう答えるかな?」
沈黙するT君。やがてバツが悪そうに口を開く。
「……正直、答えようがありませんね」
「そうなんだよね。少なくとも、この段階では答えようがないよね。その子自身が「小学校の先生」と「中学校の先生」の仕事の本質的な違いについてどのくらい理解しているかわからないし、その子の欲求や適性もわからない。表面的な回答ならいくらでもできるけど、それほど無責任なことはないものね」
「変な質問をして、すみませんでした」
頭を下げるT君。
「あ、ごめんごめん!T君を責めてる訳じゃないんだよ。疑問をもつことはとても大切なことなんだから。僕自身はね、農業を始めたときに、「野菜が良いか」「果樹が良いか」といった単純な疑問すら考えることをしなかったんだ。たとえ、果樹栽培の修業をするという結果は同じだったとしても、始める前に少なくとも野菜と果樹の比較検証くらいはするべきだったと思っているんだよ」
こうしたやり取りの後、私はT君に、野菜と果樹の違いや、栽培方法の種類について簡単に説明をした。
内容は概ね、以下のような感じである。
作物の種類
野菜
種や苗を植えて生育させる。一般的には1~3カ月程度で収穫できる作物が多い。
ナス、トマトなど果実を食べる「果菜類」、キャベツ、ホウレンソウなどの葉を食べる「葉菜類」、ニンジン、ダイコンなど根を食べる「根菜類」などがある。他にも「花菜類」「茎菜類」「イモ類」「マメ類」「穀物類」などがあり、しいたけ、しめじなどの「菌茸類」も野菜に分類される。
果樹
樹木の手入れ(枝の剪定、消毒など)を行いながら果を結実させる。1年に1回の収穫が基本。苗から育てると収穫するまでに3~5年以上かかる。
みかんやレモン、ライムなどといた柑橘類。他にも、りんご、梨、桃、梅、ブドウ、キウイフルーツ、栗、アーモンドなども果樹栽培の主要な作物である(分類は省略)。
栽培方法の種類(野菜、果樹ともに)
露地栽培
屋外の畑で栽培する方法。最も一般的な栽培方法で、小規模で始めるなら、初期投資もそれほどかからないので、初心者でも参入しやすいのが最大のメリット。ただし、天候の影響を受けやすく、収入が不安定になりやすい。
施設栽培
ビニールハウスやその他の施設(植物工場など)で栽培する方法。施設の種類によって違いはあるものの、概ね、天候の影響をうけにくく(もしくは全く受けずに)、栽培できるのがメリット。また、屋内でのキノコ類の栽培や植物工場での水耕栽培のように、季節に囚われることなく、通年で出荷することができるので、収入が安定しやすい。
ただし、施設を建設するための初期費用や、電気・水道代などの維持費用の負担が大きいのがデメリットである。
今回の気づき
農業とは、「作物」を「栽培」して収穫物を販売し、収入を得る職業のこと。
「作物」について知ることと同じくらい「栽培」方法について知ることはとても重要なことである。
野菜にするのか、果樹にするのか。
露地で栽培するのか、施設で栽培するのか。
選択肢は2つではなく、実は4つなのである。
・野菜の露地栽培
・野菜の施設栽培
・果樹の露地栽培
・果樹の施設栽培
著者プロフィール
細谷豊明(リブラ農園・代表)/1975年北海道生まれ。イギリス留学後、出版社・編集会社での勤務を経て、食品宅配事業のWebサイト、カタログ制作のチーフエディターに就任。2019年、44歳のときに小田原市に移住し、未経験ながらも農業の道へ。元エディターの経験を生かして、新規就農者の視点から農業の現実をブログにて発信中。小田原市・認定新規就農者。