小田原~農食散歩(1)
「これは、さくらんぼですか!?」の巻(前編)
小田原で極上のサクランボに出会った。
……いや、違う!これはトマトだ!
‘赤ちゃんのほっぺ’と称されるこの「プチぷよ」という品種は、その通称通り、とてつもなく柔らかい果皮が特徴のミニトマトだ。一口噛んだときの歯触り・舌触りはまさに旬を迎えたプリっぷりのサクランボ。ミニトマトにありがちの、口の中に最後まで残る皮のジャリジャリ感がまったくない。今回、はじめて食べた記者もその食感に文字通り舌を巻いた。
もちろん、凄いのは食感だけではない。濃厚なトマトのうまみ、甘み、際立つ風味は、食べ終わった後でもしばらく口の中に幸せの余韻を残してくれる。この「プチぷよ」を知らずに今まで生きてきたとは……。「人生損してきたわ!」と思わず心の中で声が漏れる。
たった一口ですっかりこのミニトマトに魅了されてしまった。
「……いかがですか?」
しばし無言でトマトを頬張る記者に、生産者の松野さんが恐る恐る話しかけてきた。
ここは小田原の成田。あたり一面に広がる稲作風景の中にポツンと二棟のビニールハウスが立っている。ここが「プチぷよ」の生産現場だ。小田原といえば梅や蜜柑の栽培では有名だが、トマトについてはあまり聞いたことがない。なぜ、小田原なのか。どういった経緯で生産者の松野さんはこの良質な品種と巡り合えたのか。様々な疑問が心の中に浮かんでくる。
「衝撃的な美味さです」
そういって記者は2粒目の「プチぷよ」を口の中に放り込んだ。
(後編へつづく)
著者プロフィール
細谷豊明(リブラ農園・代表)/1975年北海道生まれ。イギリス留学後、出版社・編集会社での勤務を経て、食品宅配事業のWebサイト、カタログ制作のチーフエディターに就任。2019年、44歳のときに小田原市に移住し、未経験ながらも農業の道へ。元エディターの経験を生かして、新規就農者の視点から農業の現実をブログにて発信中。小田原市・認定新規就農者。